妊娠すると様々なお口の中の変化が現れる
妊娠による口腔環境の変化
女性ホルモンの変化による口腔の変化
妊娠により女性ホルモンの分泌が急激に高まると、口腔内に様々な変化が生じてきます。
女性ホルモンの増加により、歯周病菌が増殖しやすくなり、プラークの中の歯周病菌の比率も高まります。 同時に、歯肉自体の反応性も変化し、血管の透過性が高まるために炎症や出血が起きやすくなることで、歯肉炎が生じやすくなったり、すでにあった歯周炎が悪化しやすくなります。
また、唾液の年長性が高まるため、口腔内の自浄性が低下し、プラーク(汚れと菌の塊)の増加につながります。
このため、妊娠中は、今までと同じように磨いているのに、歯茎から出血しやすい。 口の中がネバネバする。 歯垢がたまりやすい気がする。という訴えが良く聞かれます。特に歯肉炎は最も多くみられる症状です。
生活習慣の変化による口腔の変化
妊娠初期には「つわり」が起こりやすく、食生活や歯磨きなどの生活習慣に影響しやすいものです。
つわりの時には味やにおいに敏感になりやすく、食べられる物が限られたり、食欲不振になったり、逆に何か食べていないと気持ち悪くなったりします。
妊娠後期になると食欲は出てきますが、胎児の発達により子宮が大きくなるため胃が圧迫され、一度に食べられる量が限られてくるので食事回数が増えてきます。
歯磨きもつわりでつらかったという妊婦さんは3割ほどですが、「奥歯まではブラシを入れにくい」といったことも起きやすくなります。 また、食事回数が増えると歯磨きが追い付かず、口腔ケア不足による歯周炎の発生や、食事内容によって虫歯の発生につながります。
妊娠・出産の各時期のお口の特徴
特徴1. 妊娠初期
つわりが始まって初めて妊娠に気付く場合もあるようですが、つわりは妊娠6~9週ごろがピークで、14週頃には治まることが多いようです。
この時期は女性ホルモンの分泌が急増するため、歯肉炎の発症(妊娠性歯肉炎)が見られやすくなります。
妊娠性歯肉炎は認否の30~70%くらいに発症すると報告されており、プラークの付着が増加しなくても起こりやすいものですが、一方では適切なブラッシングや歯科医院での歯石除去で改善がみられる事も報告されています。
特徴2. 妊娠中期
お腹が大きくなり、胎動もはっきりしてきて赤ちゃんが育ってきているという実感が得られる時期です。比較的体調も安定しやすく、食欲も増してきます。
この時期には妊娠性のエプーリスが発現しやすく、前歯部の唇側の歯肉に見られます。
特徴3. 妊娠後期
さらにお腹が大きくなり、子宮が肺や胃を圧迫するため、息切れ、動悸が生じたりします。
また一日の食事量が少なくなるため、食事回数が増えて口腔ケアが不十分になり、口腔内の酸性化も起こりやすく、歯肉炎や虫歯の進行が心配になります。
特徴4. 出産後
女性ホルモンの分泌が元に戻ることで、口腔症状は徐々に改善していきます。歯肉炎や妊娠性エプーリスは自然に治りやすいものですが、虫歯や歯周病は自然に回復することはないので歯科治療が必要になります。
出産後の患者様は授乳や赤ちゃんの世話で忙しくなるため、睡眠や食事が不規則になりやすく、また歯磨きも不十分になりがちです。なかなか時間が作れなくても、この時期にしっかりと歯科医院で健診やケアをすることで悪化を防ぐことができるので、パートナーに協力してもらうなどして歯のケアも忘れずに行いましょう。
歯周病と早産・低体重児出産
進行した歯周病が早産・低体重児出産のリスクを高めると言われています。
歯周病原菌が血流にのって子宮に達すると、子宮内に炎症が高まり、また歯周組織の炎症により産生された炎症性サイトカインが子宮の収縮を誘発することが、早産のリスクにつながるという事です。
特に、高齢出産の妊婦さんが増えている現代では、妊娠前にすでに歯周病に罹患している場合も少なくないため、妊娠中の歯周病の進行が早産・低体重児出産につながらないように治療が必要です。
妊娠中の歯科治療
当院では、妊婦さんとそのご家族の方にも、不安を与えないようしっかりと説明をすることや、無理のない範囲での治療をしています。
歯科用X線撮影について
『放射線→被ばく→胎児への影響は?』と心配になる方も多いですが、当院では必ずX線撮影を行う時は防護用エプロンで胸部~腹部を十分に遮断します。
また、照射方向は歯や顎が主であり、これらの部位は子宮や性腺から離れている為、おなかの赤ちゃんへの影響はほとんどないとされています。
さらに、当院のレントゲンは最新のデジタルX線機器を採用しており、その放射線量はごく微量(飛行機でニューヨークまで往復する時に受ける放射線量の20分の1)のためまず心配ないこと、そして的確な診断と手遅れにならない治療を行うためにもX線撮影は必要な場合も多いのです。
歯科麻酔について
麻酔は赤ちゃんに影響はないの?
歯科での局所麻酔は局所に作用して局所で分解されるものです。
通常の歯科麻酔の使用量は1.0~1.8ml位ですが、この量の中に転嫁されている血管収縮作用のあるエピネフリンはさらにわずかな量であるため、胎児を低酸素化することはまずありません。
できれば歯科麻酔をせずに治療したい
当院では患者様の気持ちに寄り添ってご希望を第一に考えます。
しかし、歯科麻酔が必要と診断された場合の治療には痛みが予測されるものであり、痛みを我慢しながら治療を受ける方がつらく、痛みにより心拍数が増してしまうこともあるので、リスクの程度もよく説明しますので、柔軟に考えましょう。
薬物の服用について
最も薬物の影響が大きく、危険な時期は胎児の中枢神経や臓器、器官が発生、形成、分化する時期である妊娠初期で、特に妊娠4~7週目末までの期間といわれています。
しかし、どの時期であっても妊婦であることを認識しておかなければなりません。あくまでも、治療上の有益性が、薬剤の危険を上回る場合にのみ処方されます。鎮痛薬は一般的なものは妊婦さんに禁忌のものも多いのですが、胎児の催奇形や機能障害などと関連しないとの調査から非ステロイド性消炎鎮痛薬のアセトアミノフェン(商品名カロナール)が選択されます。
当院で行う、妊婦さんへのその他の配慮
お腹が膨らむと、足元が良く見えないため、診療イスに座ったり下りたりするときは、つまずいたり転倒しないように手をお貸しするなどしています。
診療イスを動かすときは、一気に動かさずに2~3回に分けてゆっくり行うようにしています。
マタニティ健診や歯科はお気軽にどうぞ
随時、妊婦さんの健診や相談、そして治療も受付けております。その際は、必ず母子手帳や健康保険証の持参をお願い致します。